論争 格差社会

文春新書編集部編『論争 格差社会』、文春新書、2006

「格差論争」に関わる比較的短い文章を集めた本。この問題に関して発言している中心的な論者の一部はカバーしてあるので、誰が何をいっているのかをざっと知るためには(本当にざっとしかわからないが)役に立つ。しかし格差論争といっても、データで議論して決着がつくような部分は思ったより多くはないようだ。稲葉振一郎本田由紀、若田部昌澄「そんなにいるわけない!ニート「85万人」の大嘘」が、論争には耐えるか。しかし肝心の論敵、玄田有史の反論がないので、この本だけ読んでも決着はわからない。あと、おもしろいのは新自由主義=格差拡大論を袈裟懸けに切り捨てる竹中平蔵の議論か。これも宮崎哲弥の突っ込み不足で論争というところにはいっていないが。しかし、森永卓郎渡部昇一日下公人のいってることは相当ひどい。特に渡部と日下の対談は読んでいられない。どういう基準で文章を収録しているのか、不明。また、こういう本にはある程度詳細な解題がつくべきだと思うが、巻頭の編者、水牛健太郎の文章は、その役割を果たせていない。