桃太郎の海鷲

「桃太郎の海鷲」、瀬尾光世監督、藝術映画社、1943


NHKの番組にもちょっとだけクリップが出ていたので見てみた。これまで、この作品が日本最初のアニメーション映画だと思っていたが、正確には「日本最初の長編アニメーション映画」。長編といっても、37分。

後続作品の「桃太郎 海の神兵」と比べると、いきなり鬼ヶ島を空襲する直前の場面から始まって、飛行隊が帰ってきておわり。つまり真珠湾攻撃の「戦闘場面」の部分しかなく、その前の、なぜこの戦闘がという部分はない。まあ、空襲だけだし、植民地解放という話じゃないので、そこは桃太郎はそういう話ということで押し切ったということ。

戦闘だけといっても、単に空襲だけというわけではなく、飛行隊が発進するまでの航空母艦の艦上の場面をていねいに描いている。司令官だけが人間(桃太郎)で、後はイヌ、サル、キジが搭乗員。整備員や艦上要員はウサギ。このウサギが非常にかわいい。

鬼ヶ島の主力艦隊は、戦艦しかいない。乗員は「ポパイ」のブルート。そんなに昔からポパイはあったのかと思ったら、1930年代にはポパイの映画はあった。さすがにポパイやオリーブを悪役にするわけにはいかなかったので、出てくるのはブルートだけ。

戦艦は魚雷と爆弾で攻撃するが、鬼ヶ島の飛行場は爆撃するのではなく、桃太郎側の飛行機から、サルが列になって飛び降りて、そのままマッチで飛行機に火をつけて回るのでおどろいた。B-17らしい飛行機もこれで爆発。どうやって帰るのかと思ったら、サルが塔をつくって、飛行機に拾ってもらうのだ。

飛行隊が鬼ヶ島に飛ぶ途中で、海鳥のひなを助けてやる場面がある。これは、後で攻撃機が一機だけ海に不時着した時に、搭乗員を海鳥が助けて航空母艦まで連れ帰るところで効いてくる。

37分の尺だが、ちゃんと作っている。子供でも退屈しない出来。長くなくてちょうどいいのかも。音楽は伊藤昇。だいたいは軍歌の編曲だが、オリジナル曲もよくできている。ディズニーとは比べられないが、これはこれでおもしろい。