成田亨 美術/特撮/怪獣

成田亨 美術/特撮/怪獣-ウルトラマン怪獣の原点」、福岡市美術館、2015.2.6


成田亨の大規模な回顧展が福岡市美術館で開かれていたので行ってきた。とにかく点数が多く、700点くらいあるのだ。

学生時代の作品から、ウルトラQ、マン、セブンのウルトラシリーズ、マイティジャック、突撃ヒューマン、円盤戦争バンキッドのTVシリーズのほか、「宇宙快速艇」などの映画のデザイン画、80年代に描かれた、創作怪獣のスケッチ(作品化を前提としていないもの)、晩年の鬼や神話に登場する獣を描いたもの、「麻雀放浪記」のセット(これは実物を再現)など、おなかいっぱいある。

まともに見ていたらたぶん半日はかかるだろう。普通の展覧会と違うのは、有名画家の展覧会でも、客はその画家の作品群を全体として知っているわけではないことが多いのに対して、この展覧会では、客はウルトラシリーズやマイティジャックは何回も見て細かい造形まで頭に入っているから、原画やスケッチを見て、どこがどう変わっているのかをちゃんと把握できるというところ。

たいていの怪獣では、初稿はよりシャープで緻密なデザインになっているが、決定稿になったものは、丸みが入っていたり、省略があったりするものが多い。おそらく実際に着ぐるみをつくるときに作りやすくしなければならなかったのだろう。

ウルトラマンウルトラセブンの初期デザインも、ヒーローっぽくなく、より「宇宙人、宇宙生物」に近いもの。ウルトラセブンは、カラーリングが、実際のものと赤い部分と銀色の部分が逆になっている。つまり、赤い巨人ではなく、銀色の巨人(ウルトラマンと同じ)になるはずだったということ。

防衛チームの制服、武器、基地のセットなど、細かい部分までデザイン画が並べてあって、ウルトラホークの発進シークエンスも、成田亨の頭の中でできていたことがわかる。マィティジャックは、エキゾスカウトやコンクルーダ-についても、何枚もスケッチを描いていて、デザインが工夫されている。

怪獣もそうだが、メカニックは、工業デザインとして見ると、明らかにおかしい(潜水艦がそのまま空をとぶとか、ヘリコプターのローターのつけ方)部分があるのだが、テレビや映画の作品を作るのだから、かっこよければアリなのだ。逆に本物の飛行機の設計者がこのようなものをデザインしようとすると、あれほどかっこいいものはできなかっただろう。

円谷プロと版権問題で対立して縁を切った後も、ウルトラ怪獣、宇宙人のスケッチをかなり多く残している。仕事としてではなく、自分の創作物に非常に愛着があったことがうかがえる。

成田亨の作品には、抽象がほとんどなく、ほぼ全部が動物や神話のイメージを元にして、そこから想を得ているものばかり。円谷プロウルトラシリーズは、「帰ってきたウルトラマン」以後のものも含めて、すべて初期の3作の延長線上にあり、根本的に違うものは作っていないのだから、成田亨のデザインが特撮作品に与えた影響力は圧倒的といえる。

しかしこの展覧会の図録、分厚いのでしかたがないが、5400円もするのだ。どうしようかと思ったが、この機会を逃せば買えないかもしれないことと、特別付録で「突撃ヒューマン」のヒューマンサインの紙の円盤がレプリカでついてきたので結局買ってしまった。また場所ふさぎなものが増えてしまった・・・。

この展覧会は、富山、福岡、青森を巡回するだけで、なぜか首都圏と関西圏は素通り。必ずお客が来ると思うのだが、なぜでしょう。もったいない。福岡展に行けたのはラッキーと思わなければ。