人斬り与太 狂犬三兄弟

「人斬り与太 狂犬三兄弟」、菅原文太田中邦衛三谷昇ほか出演、深作欣二監督、東映、1972


最高にキチガイな映画。「現代やくざ 人斬り与太」が当たったので、似たタイトルで作られたが、キャストがほぼ同じということ以外、設定上の共通点はあまりなし。しかし、タイトル通り、菅原文太は狂犬そのもの。敵の「新政会」組長を出刃包丁で殺害して刑務所入り、出てきたところから話がはじまる。

菅原文太は、「出てくりゃ金バッジの大幹部」と思い込んで刑務所に行ったのだが、、自分の組「村井組」の親分、内田朝雄は新政会と手打ちをしていて、菅原文太はお呼びでない。ろくにカネもくれないので、菅原文太は組のシマにある店からカネを掠め取るが、当然親分と代貸室田日出男に怒られておわり。

そこで、弟分の田中邦衛と勝手にシノギを始めることにして、売春宿兼業のバーに乱入。ママを強姦して店を乗っ取る。後は店の上がり(やたら流行っている)を懐にして、新政会の賭場に乗り込んで遊んでいる。そこにいたのが、カネを貸してもらえないと毒蛇を持ち出す物騒な男(三谷昇)。これで狂犬三兄弟が揃いました。

しかし、新政会が三兄弟のシノギを知って、警察を動かすので、またまたこれもうまく行かなくなる。そこで三兄弟は新政会のナワバリを侵略。ところが三谷昇は捕まって殺される。文太はますます暴れ回り、弟分の田中邦衛もついていけなくなって、縁を切ってしまう。家に帰って暴れているところを母親の菅井きんに殴り殺されました。

手がつけられない菅原文太は、もはや新政会と村井組の両方から狙われるようになるが、菅原文太は先手を取って、自分の親分内田朝雄を射殺。新政会は、これを知って文太の居所を村井組に通報。室田日出男は子分どもを連れて、文太を蜂の巣にするのでした。


文太は、カネ、女、敵はぶっ殺せの三か条だけで生きている、まさに狂犬。内田朝雄や、室田日出男、新政会の渡辺文雄が常識的なヤクザなのとは対照的に、あらゆる意味で頭がおかしい。味方からも敵からも狂犬扱いである。

このキチガイ映画の一輪の花が、渚まゆみ。田舎から出てきたところを文太の売春バーに連れ込まれていきなり犯されてしまうが、ママとは違って犯されても全然おとなしくならない。逃げられないように、服を取られてしまうと、丸裸で外に駆け出していく狂いっぷり。ある意味、渚まゆみも一種の狂犬仲間みたいなもの。しかも、それなりに重要な役なのに、セリフが一つもない。叫び声以外に声は出さないのだ。

最後に菅原文太の死体が運ばれたところを人ごみの中から見ている渚まゆみ。ラーメンを食べているところに、「そして数カ月後 この女は狂犬の血をひいた赤ん坊を産んだ」という字幕が流れてきて終わり。

これを見ていたら、「仁義なき戦い」は、ある意味常識人たちのドラマに見える。明らかにキチガイっぽい大友勝利ですら、一応計算は立てている。この作品の菅原文太は、ひたすら狂気あるのみ。最後の犬のような死に様といい、ある意味、映画の歴史に残る役。脚本は、松田寛夫神波史男