鬼火(1956)

「鬼火」、加東大介津島恵子ほか出演、千葉泰樹監督、東宝、1956

「鬼火」でもルイ・マルのほうではなくて、千葉泰樹のほう。こちらは50分もない中編映画。しかしこれはなかなかおもしろい。

加東大介はガスの集金人で、津島恵子が病気の夫(宮口精二。ほんとに死にかけているような姿)を抱えてガス代が払えないというのにつけこんで、津島恵子を犯してしまおうとたくらんでいる。なかなか応じない津島にじれて、家にまた押しかけていくと、夫は死んでいて、津島は首をつっていた、という陰惨な話。

原作は吉屋信子となっているが、こういうものも書いていたのか。加東大介があの顔で、津島恵子との情事を想像してやに下がっているところはなかなかいい芝居。津島恵子も、微妙に誘いにのるつもりがあるんだかないんだかわからないところが見ている方をあきさせなくてよい。

最後に津島の部屋で二人が死んでいる場面では、ガスの火がつけっぱなしになっていて、その炎が暗がりにゆらめいている。タイトルはここから来ていたのだ。天井からぶら下がっている津島恵子に、恐怖でひきつっている加東大介。音楽は伊福部昭なので、いういことはない。加東大介は、この作品で「大番」の主役をつかんだというが、それも納得させられる作品。