永遠のマリア・カラス

「永遠のマリア・カラス」、ファニー・アルダンジェレミー・アイアンズほか出演、フランコ・ゼッフィレッリ監督、イタリア、フランス、イギリス、ルーマニア、スペイン、2002

マリア・カラスの最晩年を描くドラマ。監督はゼッフィレッリで、カラスを個人的に知っているわけなので、ドラマとはいえそれなりにマリア・カラスの実像を描こうとしているのだろう。マリア・カラスは、大スターだったわりに絶頂期が短かった人だから、そうした意味でも人間としての姿を映画の形で残しておきたいと思ったのかもしれない。

おはなしは、晩年、引退して昔の思い出に生きるカラスを、カラスの昔の知り合いで今はロックのプロモーターをしているジェレミー・アイアンズが訪ねるところから。アイアンズの企画は、カラスを主役にしたオペラ映画をつくること。といっても、もはや引退したカラスに歌は歌えず、昔の録音を今のカラスの演技にあててしまえというもの。これはある意味、カラスにとっては屈辱的な話で、カラスは当然この話をいったん断るのだが、実はカラスもこれで終わりたくないと思っているのである。

技術的にそれが可能なことを確かめると、今度はカラス自身が「カルメン」を映画にすることを提案する。この映画を見るまで知らなかったが、「カルメン」は、録音はあるのだがカラスは実際に舞台で演じたことはないのだという。ダンスのステップも自ら踏むことに決め、映画作りに打ち込むカラス。ラッシュを見た関係者は拍手喝采だが、カラス自身はやはり今の自分が歌ったものではないものを人に見せることに納得がいかなくなる。そこで「トスカ」を実際に歌って映画にすることを提案する。アイアンズも乗り気でプロデューサーたちに話を持っていくのだが、「もう歌えない歌手のオペラでは作る価値なし」として却下。カラスは、結局作ってしまったカルメンを含め、全部をオクラにすることに決める。資金の半分を出資していたアイアンズはキレかけるが、結局あきらめる。二人は老いた自分を語り合って別れるのでした、という終わり方。

この映画のカラスは身勝手といえばそれまでなのだが、かなり年をとっても水準を維持できる指揮者や楽器の演奏家と違い、まだ若いうちに声をつぶしてしまった歌手の無念さと執着は画面から強烈に伝わってくる。カラスの実質的な引退は40代半ばだったのだから、それも当然だろう。芸術の美しさと残酷さがひしひしと感じられる映画。最後のファニー・アルダンとアイアンズのしみじみとした語りは胸を打つ。